Tokyo National Museum 2/4

東京国立博物館 黒田記念館 2/4

展示デザイナー・木下さんの仕事

1872年に創設された日本最古の博物館、東京国立博物館。通称「トーハク」として親しまれる同館では、複数の展示室でアクタスが提案したインテリアが採用されています。あくまでも展示作品が主役の博物館で、なぜインテリアにこだわる必要があるのでしょうか。2014年12月に完了した黒田記念館のリニューアルプロジェクトの舞台裏をメインに、東京国立博物館 学芸企画部企画課 デザイン室長の木下様とアクタス営業担当の宮本にお話を伺いました。

― 展示デザインのなかにどうやってインテリアを組み込んでいくのか、直近に手がけられた黒田記念館のリニューアルを例に教えていただけますか?

木下
黒田記念館とは、日本近代洋画の父とされる画家・黒田清輝の没後、1928年に竣工した美術館です。長らく東京文化財研究所によって運営されてきましたが、2007年に組織改編があってトーハクと同じ国立文化財機構の所管となりました。そこで東博が耐震改修工事をすることになったのですが、それを機に施設そのものの運営体制も大きく変えることにしたんです。展示に関わることで言うと、ひとつは、これまでは週に2日しか開いていなかった施設を毎日開放することになりました。それから、『湖畔』『智・感・情』『舞妓』『読書』という黒田清輝の代表作4点を新たに設けた特別室に展示し、ここだけは年3回──お正月と春、秋に2週間ずつの公開としたことです。
― 日本館のリニューアルデザインでは、平成18年度の「日本デザイン学会年間作品賞」を受賞されていますね。

― それは重要な変更ですね。展示デザインにも大きく影響しそうです。

木下
おっしゃるとおりです。結果的に黒田記念館の展示室は前述の「特別室」と、毎日開放する「黒田記念室」の2部屋でリニューアルオープンしました。まず最初にどの空間をどの展示室にするかを決め、次に各展示室の照明とクロス(壁)をどうするかを考え始めたのですが、これがとても大事なことなのですが……。

― 2つの展示室のうち、特に印象的なのが特別室のクロスです。黒に近い濃緑で、かなり重厚な雰囲気に仕上がっていますね。

木下
特別室に関しては、黒田の代表作『湖畔』ありきですべてがデザインされました。あの作品──より具体的に言えば作品に描かれた黒田の妻の肌色や湖の淡いブルー、遠景の山の緑がもっとも映える壁の色はなにか。そう考えて採用されたのが濃緑でした。じつは、これまで印象派など淡い色使いが特長の作品を飾る展示室の壁は、どの国の美術館でも白やベージュにするのがスタンダードでしたが、ここ数年、濃い色に変えようという世界的な潮流があるんです。それに加え、黒田記念館の担当学芸員の「もっと濃い色にしたい」という希望もあり、比較実験を経て、最終的にこの色に落ち着いたと。僕もこんなに濃い色のクロスを絵画の為の平常展示室に採用するのは初めての経験だったので、大きな決断ではありましたね。

― そこに照明が加わる。

木下
はい。リニューアル作業を進めていた2010年〜2011年というのは、一般的にLEDランプが広く普及した時期に重なります。黒田記念館でも、すべての展示用照明器具を従来のハロゲンランプからLEDランプに変えようということで、クロスと同様に作品がもっとも美しく見える器具をじっくりと検討しました。

― クロスと照明が決まるまでにどれくらい時間がかかるものなのでしょうか?

木下
いやー、かなりかかりましたよ(笑)。クロスは京都の西陣のメーカーに特注した、色や織りの異なるものを4種類ほど集めたので、まずクロスを織るのに3カ月くらい必要になる。展示用スポットライトも国内外のメーカー5〜6社のものを比較し、実物の『湖畔』や『舞妓』を並べてテストするんです。実験から製造まで半年くらいはあっという間に経ってしまう。

― そんなにかかるんですか! 宮本さんはインテリアを提案する際、壁の色や照明については知らされていたのですか?

宮本
私も特別室のクロスが何色なのかといった情報は事前に教えていただいていましたが、まさかそこまで大変な作業だったとは存じ上げず……失礼しました(笑)。たとえば特別室のベンチの場合、木下さんのご要望は「地味な色でシンプルなデザイン」。そこで、極めてシンプルな造作スツールに、デンマークのテキスタイルメーカー・Kvadrat社の張地を使用したものをご提案しました。

― 結果、見事に採用されたのですね。

宮本
はい。最初に木下さんからご相談いただいたとき、あの黒田清輝の『湖畔』が展示される空間に携われるということで「ぜひやりたい」と思いましたし、いまこうして特別室にベンチが置かれているのを見ても感慨深いものがありますね。

木下 史青
東京国立博物館

1965年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、同大学美術学部デザイン科助手、(株)ライティング プランナーズ アソシエーツを経て、1998年より専属の展示デザイナーとして東京国立博物館に勤務。照明、配置、保存など展示に関するプロデュースを主な業務とし、「国宝 平等院展」「国宝 阿修羅展」をはじめとする特別展・総合文化展の展示デザインを手がける。2004年には東京国立博物館の本館リニューアルにおいて平常展示のリニューアルデザインを担当。平成18年度日本デザイン学会年間作品賞を受賞。著書に『博物館へ行こう』(岩波書店)、共著に『昭和初期の博物館建築』(東海大学出版会)がある。

宮本 紳
ACTUS営業

1959年、長崎県生まれ。慶応義塾大学ラグビー部出身。2007年1月、アクタスに入社。教育施設をはじめ、オフィス、リゾートホテル、飲食、教会などコントラクト案件を数多く手掛ける。インテリア業界歴20年強、日々新たな発見がある。

東京国立博物館 黒田記念館

住所:〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00 (入館は閉館の30分前まで)*時期により変動あり
入館料:一般620円、大学生410円 *黒田記念館は入館無料
お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
WEBサイト:http://www.tnm.jp/