ウェルビーイングを取り入れた企業経営の実践とメリット
企業経営において、従業員の健康や幸福度の維持は重視すべきポイントです。その実現のための経営戦略は「ウェルビーイング経営」と呼ばれ、近年は積極的に取り組む企業も増えています。今回の記事では、企業経営にウェルビーイングをどのように取り入れて実践していけばいいのか、具体的にどんなメリットがあるのかについて解説します。
ウェルビーイングとは?
まずは、ウェルビーイングの定義から確認していきましょう。
ウェルビーイングの定義とその重要性
「ウェルビーイング(well-being)」は、英語の「well」「being」が組み合わせられてできた言葉です。ウェルビーイングはWHO(世界保健機関)の世界保健機関憲章前文にも登場し、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」とされています。
このウェルビーイングは、企業経営においても重視されている概念の一つです。会社で働く従業員の幸福度を高めるには、肉体的・精神的な健康を守ることだけではなく、社会的にも満たされた状態を目指す必要があります。つまりウェルビーイングは、人事施策や経営戦略などを含めた企業経営を考える上で、重要な役割を果たす考え方と言えます。
企業におけるウェルビーイングの取り組み事例
日本国内にも、ウェルビーイングを積極的に経営へと取り入れている企業が存在します。その具体例を紹介しましょう。
◼︎ある住宅メーカーの例
従業員を幸福・健康にする経営方針を新たにビジョンに掲げる
- 全従業員を対象に「幸福度調査」を実施
- 結果に基づいたワークショップや対話を開催
従業員の幸せを追求していくことを重視する方針を打ち出し、従業員と職場の「幸福度」を調査したという事例です。従業員の幸福度が企業の創造性・生産性に直結することを理解した上で、調査結果に基づいて一人一人が幸福度向上を実現できるような取り組みを進めています。
◼︎あるインターネット関連サービス会社の例
従業員が安全、健康に働ける職場環境づくりを戦略的に推進
- 心身の健康状態を分析する調査を定期的に実施
- 従業員参加型のセミナー、ヨガ、ストレッチ、体操教室を定期開催
- 社内クリニックの設置
- フレックスタイム制の導入
上記の企業では、心身の健康状態を調査したところ、従業員が抱えている課題として「運動不足」「睡眠の質」「体重管理」が挙げられました。この調査を実施したおかげで、それぞれの課題を解決するような取り組みを戦略的に行うことにつながっています。従業員が自身の健康を把握できる機会、健康につながるイベントの開催、柔軟な働き方の推進など、幅広い視点で取り組みを推進している点が特徴です。
ウェルビーイングの具体的な施策とメリット
企業がウェルビーイングを企業経営に取り入れるための方法と、そのメリットについて解説します。
コミュニケーションの活性化と心理的安全性の構築
従業員同士のコミュニケーションが活発な組織は、意見やアイデアを共有しやすく、プロジェクトの効率的な進行や創造性の発揮につながります。コミュニケーションが活性化するような機会を定期的に設けたり、オープンで交流しやすいオフィス環境づくりを目指したりすることが理想的です。
また、従業員が心理的安全性のもと、自身の意見を述べられる組織風土を築くことも欠かせないでしょう。立場に関係なく互いの意見を尊重し合えるような組織であれば、従業員も居心地の良さを感じやすくなります。
健康とワークライフバランスの促進
従業員の健康状態が把握できる労働環境や制度を整えることも重要です。企業側が管理できる体制をつくることも理想的ですが、まずは従業員自身が自分の健康状態と定期的に向き合える機会をつくりましょう。
- 健康状態やストレスレベルの定期的な調査
- 定期健康診断の実施
- 予防接種の推進
- 産業医との健康面談の実施
また、従業員のワークライフバランスを尊重することも一つです。以下のような柔軟な働き方を認めていくことで、心身ともに健康に働ける環境づくりを目指していきましょう。
- 在宅ワークやフレックスタイム制の導入
- 時間外労働時間への上限規制の設置
- 有給休暇取得の推進
- 育児休暇取得の啓発
従業員のはたらきがいの向上
従業員が仕事に対して意義やはたらきがいを見出せるようにすることも、ウェルビーイングの実現に欠かせないポイントです。企業理念や社会に対する役割を共有するなど、仕事の意義が感じられやすい環境づくりも目指していきましょう。
また、モチベーションが保てるような業務環境を整えることも重要です。一人一人の能力や個性が発揮できるような人員配置を意識したり、成果が認められるような評価制度を設けたり、従業員それぞれがはたらきがいを持って取り組める体制を整備しましょう。
ウェルビーイングの企業経営へのインパクト
こうしたウェルビーイングへの取り組みは、企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。その具体的な効果について確認していきましょう。
生産性の向上と離職率の低下
2022年、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが行った「ウェルビーイングと仕事のパフォーマンスにおける相関」に関するデータ分析によると、ウェルビーイング偏差値と仕事のパフォーマンスの相関係数は0.59(指標に不足がない企業に限定した場合は0.45)との結果が出ました。この結果から、2者の間には中程度から大きな相関関係があると判断できます。
参考:株式会社アドバンテッジ リスク マネジメント プレスリリース
つまりウェルビーイング経営は、従業員のはたらきがいやモチベーションの向上につながることがデータとしても明らかになっています。仕事に対する意欲が高まれば一人一人の生産性が向上し、結果として企業全体の業績向上にもつながっていくでしょう。
また、ウェルビーイングを企業経営に取り入れ始めたことによって、20%台だった離職率が一桁台にまで低下した事例もあります。現状課題と向き合うために従業員と対話を行い、多様な働き方を認めていく柔軟な労働環境へと改善したことが、離職率低下につながりました。
ウェルビーイングを実現していくためには、まず従業員の声や健康状態を把握することが重要です。そこから見えてくる課題をもとに解決策を講じることで、働きやすい環境への改善につながります。一人一人の希望がそれぞれ満たされるような、柔軟かつ快適な労働環境が実現されることで、人材の定着率も高められるでしょう。
企業ブランドと人材獲得への効果
ウェルビーイングへの取り組みをアピールすれば、企業としての魅力も高まります。また、生産性の向上によって業績も好調を維持し、離職率も低下すれば、「従業員が健康的に長く働くことができる会社」として、企業ブランドの向上につながるでしょう。
会社が魅力的であればともに働きたいと感じる人も増え、優秀な人材の確保にもつながっていきます。このように、ウェルビーイング経営による労働環境の改善は、企業全体にプラスの循環をもたらしていくことでしょう。
まとめ - ウェルビーイングがもたらす未来
ウェルビーイングは、企業経営にとっても欠かせない要素の一つです。従業員の肉体的・精神的・社会的な健康を守るよう努めている会社は、従業員の満足度向上はもちろん、企業の魅力向上にもつながるなど、プラスの循環をもたらします。企業が持続的に成長し続けるためには従業員の幸福度を高めることが重要だと理解した上で、ウェルビーイングを取り入れた経営戦略を立てていきましょう。