Interview with ACTUS

Interview 2 TOKYO NATIONAL MUSEUM 東京国立博物館黒田記念館 東京国立博物館 学芸企画部企画課 デザイン室長 木下 史青 × アクタス営業 宮本 紳インテリアは「場づくり」のきっかけになる重要なツールです。

TSUKANE MIYAMOTO × SHISEI KINOSHITA

1872年に創設された日本最古の博物館、東京国立博物館。通称「トーハク」として親しまれる同館では、複数の展示室でアクタスが提案したインテリアが採用されています。あくまでも展示作品が主役の博物館で、なぜインテリアにこだわる必要があるのでしょうか。2014年12月に完了した黒田記念館のリニューアルプロジェクトの舞台裏をメインに、東京国立博物館 学芸企画部企画課 デザイン室長の木下様とアクタス営業担当の宮本にお話を伺いました。

インテリアは主役? 脇役?

東京国立博物館黒田記念館 木下 史青

― 木下さんは「展示デザイナー」としてご活躍されていますが、具体的にはどういったお仕事をされているのでしょうか。

木下

展示室の作品の配置や照明、展示ケースのデザインをはじめ、展示にまつわるプロデュース全般ですね。2009年までは主に特別展のデザインを手がけていたのですが、それ以降はずっと総合文化展示のデザインをしています。というのも、極端な話、トーハクでは「国宝阿修羅展」のような特別展には1日に1万や2万人ものお客さまをお迎えする一方で、総合文化展(平常展)の来館者は日に1000人台みたいなことも珍しくない。博物館としては総合文化展をもっと活性化させる必要があったので、2004年に本館日本美術の展示リニューアルを担当してデザインをガラリと変えました。

― 日本館のリニューアルデザインでは、平成18年度の「日本デザイン学会年間作品賞」を受賞されていますね。

木下

はい、おかげさまで。その後、特別展のデザインにも関わって、2011年から2013年にかけて東洋館の耐震改修工事と展示のリニューアルデザインを担当することに。それが終わったと思ったら、間髪を入れずにこの度の黒田記念館リニューアルプロジェクトが始まったという感じです。

アクタス営業 宮本 紳,東京国立博物館黒田記念館 木下 史青

― アクタスがトーハクの仕事をするようになったのはいつ頃ですか?

宮本

15、6年前(1999年10月オープンの考古展示室より)でしょうか。最初は展示に使うガラスケースをご提案することが多かったのですが、徐々に椅子やラックといったほかのインテリアも検討していただけるようになりました。

木下

日本のミュージアムやシアター、ギャラリーでは、空間をデザインする際、とかく展示作品にばかり目がいきがちなのです。その点、欧米の美術館などでは人が直接触れる部分である家具にものすごくこだわりがあって、作品よりも展示室に置かれている椅子のほうが有名、みたいなケースも少なくないのです。トーハクはそこをめざしたかった。アクタスさんなら、パブリックな場所とプライベートな場所のインテリアを両方扱っているでしょう? 僕、たまたま自宅でもアクタスさんで買った「アイラーセン」のソファや「ヤコブセン」のセブンチェアを使っていて、プライベートな製品のデザイン性や機能性にも絶対的な信頼があった。

宮本

ありがとうございます(笑)。

木下

だからというわけではないんだけど、そういった親しみのある家具も展示室や資料室に置いてみたいと、東洋館のリニューアルくらいから宮本さんに電話をしては「こんなインテリアありますか?」とご相談するようになりました。

東京国立博物館黒田記念館 館内
宮本

東洋館のリニューアルでは木下さんと一緒に入口のカウンターをつくらせていただいたこともあり、木下さんが展示デザインをどのように捉えているか、どういった家具をお好みになるかといったことが少しずつわかるようになりました。ただ、木下さんはパブリックな空間における家具の役割を高く評価してくださっていますが、われわれとしては博物館は展示品を見せるための空間であることを忘れてはいけません。

― あくまでも主役は展示作品で、インテリアは脇役であると。

宮本

ええ。それを大前提に、木下さんをはじめトーハクさんの意向に沿った、控え目かつデザイン性と機能性に優れた家具をご提案するようにしています。

展示デザイナー・木下さんの仕事

東京国立博物館黒田記念館 外観

― 展示デザインのなかにどうやってインテリアを組み込んでいくのか、直近に手がけられた黒田記念館のリニューアルを例に教えていただけますか?

木下

黒田記念館とは、日本近代洋画の父とされる画家・黒田清輝の没後、1928年に竣工した美術館です。長らく東京文化財研究所によって運営されてきましたが、2007年に組織改編があってトーハクと同じ国立文化財機構の所管となりました。そこで東博が耐震改修工事をすることになったのですが、それを機に施設そのものの運営体制も大きく変えることにしたんです。展示に関わることで言うと、ひとつは、これまでは週に2日しか開いていなかった施設を毎日開放することになりました。それから、『湖畔』『智・感・情』『舞妓』『読書』という黒田清輝の代表作4点を新たに設けた特別室に展示し、ここだけは年3回──お正月と春、秋に2週間ずつの公開としたことです。

― それは重要な変更ですね。展示デザインにも大きく影響しそうです。

木下

おっしゃるとおりです。結果的に黒田記念館の展示室は前述の「特別室」と、毎日開放する「黒田記念室」の2部屋でリニューアルオープンしました。まず最初にどの空間をどの展示室にするかを決め、次に各展示室の照明とクロス(壁)をどうするかを考え始めたのですが、これがとても大事なことなのですが……。

― 2つの展示室のうち、特に印象的なのが特別室のクロスです。黒に近い濃緑で、かなり重厚な雰囲気に仕上がっていますね。

東京国立博物館黒田記念館 館内
木下

特別室に関しては、黒田の代表作『湖畔』ありきですべてがデザインされました。あの作品──より具体的に言えば作品に描かれた黒田の妻の肌色や湖の淡いブルー、遠景の山の緑がもっとも映える壁の色はなにか。そう考えて採用されたのが濃緑でした。じつは、これまで印象派など淡い色使いが特長の作品を飾る展示室の壁は、どの国の美術館でも白やベージュにするのがスタンダードでしたが、ここ数年、濃い色に変えようという世界的な潮流があるんです。それに加え、黒田記念館の担当学芸員の「もっと濃い色にしたい」という希望もあり、比較実験を経て、最終的にこの色に落ち着いたと。僕もこんなに濃い色のクロスを絵画の為の平常展示室に採用するのは初めての経験だったので、大きな決断ではありましたね。

― そこに照明が加わる。

木下

はい。リニューアル作業を進めていた2010年〜2011年というのは、一般的にLEDランプが広く普及した時期に重なります。黒田記念館でも、すべての展示用照明器具を従来のハロゲンランプからLEDランプに変えようということで、クロスと同様に作品がもっとも美しく見える器具をじっくりと検討しました。

― クロスと照明が決まるまでにどれくらい時間がかかるものなのでしょうか?

木下

いやー、かなりかかりましたよ(笑)。クロスは京都の西陣のメーカーに特注した、色や織りの異なるものを4種類ほど集めたので、まずクロスを織るのに3カ月くらい必要になる。展示用スポットライトも国内外のメーカー5〜6社のものを比較し、実物の『湖畔』や『舞妓』を並べてテストするんです。実験から製造まで半年くらいはあっという間に経ってしまう。

東京国立博物館黒田記念館 館内

― そんなにかかるんですか! 宮本さんはインテリアを提案する際、壁の色や照明については知らされていたのですか?

宮本

私も特別室のクロスが何色なのかといった情報は事前に教えていただいていましたが、まさかそこまで大変な作業だったとは存じ上げず……失礼しました(笑)。たとえば特別室のベンチの場合、木下さんのご要望は「地味な色でシンプルなデザイン」。そこで、極めてシンプルな造作スツールに、デンマークのテキスタイルメーカー・Kvadrat社の張地を使用したものをご提案しました。

― 結果、見事に採用されたのですね。

宮本

はい。最初に木下さんからご相談いただいたとき、あの黒田清輝の『湖畔』が展示される空間に携われるということで「ぜひやりたい」と思いましたし、いまこうして特別室にベンチが置かれているのを見ても感慨深いものがありますね。

アクタスが輸入家具にこだわった理由

東京国立博物館黒田記念館 館内

― 特別室のほか、黒田記念館のリニューアルオープンにあたってアクタスが手がけたインテリアはどれですか?

宮本

黒田記念室のスツールと資料室のソファ、映像室のチェア。それから、エントランスにあるパンフレットラックなどですね。

木下

黒田記念室のスツールもアクタスに提案いただいたキューブ型のものを使っていますが、当初は国の登録有形文化財にもなっている昭和初期の洋館になじむようなアンティーク風の木製チェアをイメージしていたんです。黒田記念室には黒田の画室を再現したステージもあるので、インテリアを優先した空間にして、黒田がフランスで絵を学んでいた頃の雰囲気で統一できないかと。ただ、そこにこだわると歴史的な検証が必要になってキリがないし、なにより現代の博物館としてお客さまに親しみのある空間にしたほうがいい。そこで、いまのかたちに落ち着きました。

宮本

やはりご高齢の方も多くいらっしゃるので、人間工学的に優れているもの、そして先ほど申し上げた通りデザイン性と機能性に優れたものをご提案しました。あとは、このすばらしい洋風建築に見合うものということで、できるかぎりヨーロッパの家具を選びましたね。

東京国立博物館黒田記念館 館内
木下

この映像室のチェアもいいんだよね。どちらかといえば実用性重視のスタッキングチェアが良かったからデザイン面はあまり期待していなかったんだけど、実際に納入された椅子を見て「おおっ!」と驚きましたよ。すごくシンプルなのにフォルムが官能的で、黒も艶っぽくて……さすがイタリアの家具は違うなぁと(笑)。

宮本

アルパー社の「CATIFA」ですね。じつはいまだから笑って言えるのですが、この椅子をイタリアから輸入する際、受注をいただくタイミングが悪かったこともあって納期がギリギリになってしまったんですね。しかも、そんなときにかぎって悪天候が続き、最悪、間に合わないことも予想された。その場合、同じようなデザインの代替品を使うことになると腹をくくっていました。結果的には納期に間に合い、木下さんにも喜んでいただけたわけですが、あのときは肝を冷やしましたね……。

木下

そうだったんですか。

― お互いに知らなかった苦労が数多くあったということですね(笑)。でも、宮本さんとしては多少のリスクを冒しても輸入家具にこだわりたかったと。

宮本

そうですね。ただ、今回弊社からひとつだけ輸入モノではなく、「AOYAMA」という国産の椅子を提案させていただいたんです。木製のすばらしい椅子ですし、黒田記念室に置くインテリアとして木下さんが当初イメージされていたものに近いのではないかと思って。けっこう強引にプッシュしたのですが、それだけは却下されてしまいました(笑)。

アクタス営業 宮本 紳,東京国立博物館黒田記念館 木下 史青
木下

いや、すごくよかったんですよ。黒田記念館でも1階のショップに使っている椅子は某日本メーカーがつくっているトーネットチェアを再現したものですから、国産がダメだというわけではないんです。むしろ個人的には日本の家具メーカーはいろんな工夫をしてがんばっているなと好意的に見ているのですが……今回はギリギリのところで採用には至りませんでしたね。

東京五輪のためにトーハクができること

東京国立博物館黒田記念館 館内

― 黒田記念館は2015年1月に運営方針も展示空間も大きく変わってリニューアルオ ープンしましたが、来館されるお客さまの反応はいかがですか?

木下

まずみなさん驚かれるようですね。「この場所にこんな空間があったんですね」と。それに、展示室を一巡して帰ってしまうのではなく、展示室で絵を見て、資料室や映像室にも行ってからもう一度絵を見る方が多い。滞留時間が比較的長くて、黒田記念館で過ごす時間そのものを楽しんでいただいている印象です。昼間は学生さんが展示室の椅子に腰かけて話し合っていたり、夕方には小さな子どもを連れたお母さんたちがたくさん来てくれたり。上野のこの周辺は文化施設の集積地であり、黒田が日本に初めて洋画を伝えた東京美術学校──いまの東京藝術大学のすぐ近くでもありますから、それらをつなぐ地域の拠点がまたひとつ増えたのかなというのは実感していますね。

東京国立博物館黒田記念館 館内

― これだけすばらしい空間に著名な作品を収蔵していながら、これまでは週に2日しか開放されておらず、施設の存在すらあまり認知されていなかったわけですからね。

木下

もったいないですよね。みなさん文化的価値の高いものを守ろうとか保存するための努力をすることには熱心なのですが、それを見てもらう環境がきちんと整備されないと意味がない。これは博物館や美術館だけでなく日本の観光全体が抱える問題だと思います。こと黒田記念館に関して言えば、展示作品にも建物にも海外に発信する価値があるのに、これまでは発信力が弱かった。それは僕たちの反省すべき点でもあります。

― 今後、黒田記念館を含むトーハクとして、なにか新しい仕掛けや情報発信は予定されていますか?

木下

もちろん。5年後に迫った東京オリンピックです。オリンピックは本来、スポーツと芸術の祭典です。スポーツだけではなく日本の芸術をどのようにして世界へ発信するかと考えたとき、東京で芸術といえばまず上野だろうと。その上野のなかでトーハクになにができるのか、例えば東京藝大とも連携し、いまいろいろなプロジェクトが立ち上がりつつあるところです。

アクタス営業 宮本 紳,東京国立博物館黒田記念館 木下 史青

― プロジェクトの内容によっては、トーハクにまた新しい施設ができたり、既存の施設がリニューアルしたりするかもしれない。

木下

そうですね。トーハクは常に新陳代謝を続けています。東洋館や黒田記念館もリニューアルが完了し、今年の10月には平成館に考古展示室がオープンする。次はここを変えたほうがいいといったアイデアがあれば、むしろどんどんいただきたいくらいなんです。今後、新たな情報を発信し、多くの方に来館いただいて豊かな時間を過ごしていただくにあたり、インテリアはひとつのきっかけとなる重要なツールだと考えています。その意味では、これからもアクタスにさまざまな面でご協力いただきたいと思います。

more >>