オフィスレイアウトの基本と計画時のポイント【事例あり】

コロナ禍を経てオフィスのあり方が見直され、改めてオフィスレイアウトに注目が集まっています。オフィスリニューアルで生産性や従業員満足度の向上を狙う企業も多い中、自社に最適なオフィス環境を実現するにはどうすればいいのでしょうか。

目的に合わせた具体的な事例を交えながら、オフィスレイアウトの基本的な考え方や、計画時のポイントなどを解説します。

記事監修:
谷口 博紹
株式会社アクタス 店舗開発チーム デザイナー

2002年より4年間、関西のプロダクションにてイベント展示会の空間をデザイン。
その後、内装設計事務所に約11年在籍し様々な商業空間の設計業務に従事した後、
2017年アクタス入社。
現在はアクタスの直営店及びフランチャイズショップの店舗デザインを主務としながら、
アクタスの商品が関わる様々な空間のデザインを担当。
2022年秋に全面改装して誕生した、アクタスライブオフィス「THINK PORTAL」にも
インテリアデザイナーとして携わった。

1. オフィスレイアウトの事例

家具の輸入販売や空間プロデュースを手がけるアクタスは、2022年秋に本社オフィスを全面改装。ショールーム機能を備えたライブオフィス「THINK PORTAL」としてオープンいたしました。ABWの考え方をベースに、次のことを実践した結果、従業員満足度の向上や生産性の向上につながっています。オフィスレイアウトの事例としてご紹介しましょう。オフィスレイアウトで何をどこまで実現できるのかを、まずはイメージしてみてください。

1.1 企業イメージに合わせたデザイン

改装にあたっては、最近のインテリアトレンドを踏まえつつ「アクタスらしさ」を表現できるデザイン・カラーをセレクトし、「ショールーム」としての機能を持たせることを意識しました。

以前のオフィスは、店舗とはずいぶん印象が異なる空間でしたが、オフィスもアクタスらしい空間にしたことによって、従業員満足度が向上。また、アクタスの店舗をイメージさせるような空間になったことで、就活生の志望度が上昇するなど、採用・ブランディングにも効果を発揮しています。

1.2 オープンスペースの活用

アクタスのオフィスでは、コンタクトセンターやシステム部門など、一部の部門は固定席、それ以外の部門はABWのハイブリッド方式を採用しています。

まる一日集中して作業することを想定した執務エリアとは別に、電話や軽い打ち合わせなどにも活用されているフリーエリアがあります。ソファやカウンターなど種類やサイズの異なる家具を配置して、家具のバリエーションによって、執務とは異なる目的や過ごし方に対応。集中して執務を行うスペースのつなぎ目に設置されたハイカウンターは、偶発的なコミュニケーションを生み出す装置となっています。

「テラス」と呼ばれる社員向けのオープンスペースは、入社式などのセレモニーや社内向けの新作商品のお披露目会、EC向けの商品写真撮影などに使われています。

1.3 カラーリングを活用したレイアウト

オフィスのカラーリングは「アクタスらしさ」を重視してセレクト。固定席もABWスペースも同じ家具を使っていますが、固定席はほんの少しだけ明るいトーンにすることで、一日中同じ場所で作業をしていても、前向きな気持ちが保てるよう意識しています。

ただし、「アクタスらしさ」や「全体の調和」を優先しているため、空間に強い色を使うことはせず、彩りとしてグリーンを活用。家具の木の質感など、素材感にもこだわり、床、壁、天井全体で上質な空間を演出しています。

1.4 機能別に区分けしたレイアウト

アクタスのオフィスには、集中して作業したい人や、人目に触れてはいけない作業をする人のために、ワークポッドが設けられているほか、大画面で作業ができるようモニターが常設されているスペースもあります。

さらに、横になれるソファや、自由に利用できるアロマやハーブティーを備えた「リフレッシュルーム」もあり、これは社内公募で出たアイデアを採用したものです。

利用シーンに合わせて家具のスペックを変えているのも特徴的。打ち合わせで使うことを想定したスペースには、あえて工業的でないデザインのダイニングテーブルやダイニングチェアを、ミーティングの合間のデスクワークを想定したスペースにはカウンター席を、集中して作業をするシーンを想定したスペースには、長時間の執務に適したデスクやチェアを配置するなど、想定する使い方に応じた家具をセレクトすることで、快適さと見た目の美しさを両立しています。

2. オフィスレイアウトとは

改めて「オフィスレイアウト」とは、オフィス空間の中に機能別スペースや動線などを設計し、それを踏まえて家具や備品、間仕切りなどの配置などを計画することをいいます。

このオフィスレイアウトがどのように重要なのかについて考えていきましょう。

2.1 オフィスレイアウトの重要性

オフィスのあり方が見直される中、当社アクタスと同じように、オフィスをリニューアルする企業も増えています。

いま改めてレイアウトを含めたオフィスデザインが注目されている理由は、オフィスにおける物理的な距離や家具がもたらす快適性が、業務の生産性に直結するからです。また、デザイン性の高い空間は従業員満足度の向上やブランディングにもつながるため、「企業の顔」としてのオフィスの存在感が高まっているのです。

従業員満足度の向上は、顧客満足度の向上に必ずつながります。

2.2 オフィスレイアウトの基本的な考え方

最適なオフィスのあり方は企業、またオフィスによって異なるため、オフィスレイアウトを計画する際は、まずはオフィスの目的・役割を明確にすることが大切です。その上で、企業のイメージやビジョンに合わせて、最適なオフィスデザインを探し出すことが、生産性の向上につながります。

全員出社が前提だったコロナ前は、オフィスの使い方やオフィスでの時間の過ごし方が画一化されていました。ところが、コロナ禍を経て働き方にも多様性が生まれたことで、オフィスの目的や役割を明確に定義することが重要になっています。

「社員が集まるための場所」「集中して作業をするための場所」のように、オフィスの役割を明確化することによって、レイアウト・デザインの方向性が見えてくるのです。

「社員数が増えたら……」など、ある程度先のことを見越した計画も必要ですが、「社外の人に見せられるようにしたいし、作業にも集中できるようにしたい。レクリエーションもしたい……」と、あまりにも色々な役割・機能を持たせようとすると、オフィスのあるべき姿がブレてしまいます。オフィスに求める要素に優先順位を付けて、まずは最優先の目的を果たすことに注力することが理想的です。

もう少し細かなところでは、一人あたりのスペースについても、厳密に設計する必要があります。職種によっては資料や図面をデスクに広げる機会が多かったり、複数台のモニターやPCを使って作業することもあるので、職種の特性を踏まえて快適に作業ができるデスクの広さを検証するといいでしょう。また、一人あたりに必要な収納スペースについてもしっかりと確認するようにしてください。

オフィスレイアウトを計画する過程では、上層部や担当部署だけで決めるのではなく、さまざまな立場の社員からヒアリングをして、働く人の意見を反映させることも大事になってきます。

3. デスク配置におけるスタイルごとの特徴

デスク配置には大きく分けて、「固定席」「フリーアドレス」「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の3つがあります。

それぞれのスタイルにメリット・デメリットがあり、部署によっても向き・不向きがあります。人事や情報部門などセンシティブな情報や機密性の高い情報を扱う部署は固定席にして、それ以外の部署はフリーアドレスにするなど、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、複数のスタイルを組み合わせたハイブリッド方式を検討してもいいでしょう。

3.1 固定席

「固定席」は文字通り、特定の社員に特定の席を割り当てる方式です。固定席のメリットは、各個人の業務内容や役割に応じて、デスクの広さ等を調整することができ、その人にとって最適な執務環境を整えやすいことです。基本的にものを動かす必要がないため、大きなパソコンやモニターなども常設できます。

また、資料やオフィス用品など、個人が使うものを整理整頓して置いておけるため、必要なときに必要なものをすぐに取り出しやすいこと、席を移動するたびにものを動かす手間がないことも固定席のメリットです。

一方、固定席を設けると必要な席数が増えてしまうため、広いオフィススペースが必要になることがデメリットとして挙げられます。オフィスのスペースが大きくなると、その分コストもかさむでしょう。

また、いつも座る席が決まっているというのは、ある面で働く人に安心感をもたらす一方で、日頃コミュニケーションをとるメンバーが固定されやすいというデメリットもあります。

3.2 フリーアドレス

フリーアドレスは、社員一人ひとりに決まった席を割り当てるのではなく、各個人がその時々で自分の好きな席で働くスタイルを指します。

フリーアドレスの場合、基本的に全社員分の席を設ける必要はないため、席数を減らして、オフィスのスペースを効率よく活用できるのがメリットです。コロナ禍をきっかけにフリーアドレスを導入し、オフィスの面積を縮小した企業も少なくありません。

また、フリーアドレスでは各社員がその時々で空いている席を利用するため、コミュニケーションを取るメンバーが固定化されにくく、社内のコミュニケーションが活性化しやすいというメリットもあります。

一方で、各個人の役割や業務内容に応じて執務環境を最適化しにくいことや、書類や持ち物の管理・移動に手間がかかることがフリーアドレスのデメリットです。さらに、「誰がどこにいるのかわかりにくい」「チーム・部門内でのコミュニケーションが取りにくい」といった問題が出てくる可能性があるほか、出社人数が多いときは座席の数が足りなくなる懸念もあります。

3.3 ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)

ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)とは、その時々の活動(仕事)の内容に応じて、社員一人ひとりが自由に働く場所を選べるスタイルのことです。

フリーアドレスは、その時々で働く席を選べることに主眼を置いているため、必ずしも作業空間にバリエーションがあるわけではありません。一方のABWは、「個人作業用」「チーム作業用」「ミーティング用」など、用途に応じて作業空間が分かれており、「集中して作業したいときは誰にも邪魔されない空間で働く」など、作業内容に応じてフレキシブルに働く場所を選べるところに特徴があります。

その意味で、ABWはフリーアドレスの進化系であり、作業内容に応じて働くスペースが柔軟に選べることで、より生産性の向上につながりやすいと言えるでしょう。ただ、「書類や持ち物の管理・移動に手間がかかる」「出社人数が多いときは座席の数が足りなくなる可能性がある」といったデメリットは存在します。

4. オフィスレイアウトを計画する際のポイント

オフィスレイアウトを計画するなら、生産性や従業員満足度の向上につなげたいもの。そのためには法令順守を前提に、次のことを意識しましょう。

4.1 社員の動線を考える

オフィスレイアウトの計画にあたっては、オフィスの目的に応じた動線動線設計がポイントになります。オフィスでは「行って戻る」といった廊下のような動線しかとられていないことが多いですが、「行って戻る」単純な動線よりも、ぐるっと「回遊」できるような動線にしたほうが、遊び心が生まれ、コミュニケーション活性化にもつながる可能性があります。

目的に合った動線を意識する一方で、機能にとらわれすぎないことも大切です。例えば、通路の正面に扉があるのではなく、一度通路の先を曲がってから扉があるような設計にすることによって、通路のつき当たりの壁にアートを飾ることができるようになります。こうした方法でオフィスに華やかさが生まれ、空間の質が向上するのです。

4.2 コミュニケーションの促進

コミュニケーションの促進には、オフィス内に執務スペースと会議室の中間にあたるスペースを点在させることが有効です。座れる場所だけでなく、ハイカウンターのように通路のそばで立ったままちょっと話せるような場所を設けるのもいいでしょう。

休憩スペースに関しても、生産性を向上させるオフィスの機能として計画することが大切です。スペースに余裕があり、レクリエーションスペースが設けられれば理想的ですが、そうでなくても、「おいしいコーヒーを飲めるようにする」「質の良いソファを置く」など、休憩に対して投資することを心がけましょう。

4.3 プライバシーの確保

プライバシーの確保は、業務に集中するという観点だけでなく、情報セキュリティという観点からも重要です。特に顧客情報や人事情報、機密情報を扱う部門については、周囲から作業内容が見えないような環境に固定席を設けるなどの配慮も検討するべきでしょう。

そうでなくても、「たまにデリケートな内容のWeb会議がある」「細かい作業をするときは、人目のないところ、話しかけられないところでしたい」という人もいます。集中して作業ができ、音が漏れないブース型のスペースがあるとそうしたケースにも対応できます。少人数用のブースがあれば、会議室に行くほどではないものの、オープンスペースでは話しづらいような内容の会話もしやすいので、ちょっとした相談事や1on1 の促進も期待できます。

4.4 消防法などの法令を守るレイアウト

オフィスレイアウトを設計する際は、消防法などの関連法令の順守が大前提になります。消防法では、各部屋に火災報知器や消防設備を設けることが定められているため、天井まで届く高さのパーテーションや壁で空間を仕切ってしまうと、独立した「部屋」と見なされ、そのぶん火災報知器や消防設備を増設しなければなりません。同様に、排煙窓のない部屋ができることのないよう、排煙設備を増設しない場合には空間を天井まで区切らないようにする必要があります。

また、通路の幅については建築基準法による定めがあるほか、消防法では「実際に避難ができる状態になっているか」という点も見られます。オフィスレイアウトを計画する際は、想定しているレイアウトが法律の要件を満たしているか、早い段階で専門家に確認しながら進めるようにしましょう。

5. まとめ - 目的に合ったオフィス環境の実現を

オフィスの役割が多様化する中で、生産性向上や従業員満足度の向上など、オフィスにもプラスアルファの機能が求められるようになっています。

自社に最適なオフィス環境を実現するには、あれこれ盛り込もうとするのではなく、オフィスにどのような役割・機能を持たせたいのか、優先順位を整理することが大切です。その上で、最も重視する役割・機能に必要な要素をピックアップして、働く人の意見も取り入れながら、目的に合ったオフィスを作っていきましょう。